エンターテインメント業界の企業ハラスメントはなぜ明るみになりやすいのか。
昨年もこんな内容「レスリング協会の対応に見るパワハラの正体とは」を書きましたが、今年も似たような出来事が多くありました。
アイドルグループNGT48のファンとの繋がりから始まったメンバーへの暴行事件に対する一連の事務所の対応、
ジャニーズ事務所から独立した元メンバーに関してジャニーズ事務所から各テレビ局へ対して行われていたとされる出演への圧力疑惑とそれに伴う公正取引委員会からの注意。
そして今回、吉本興業所属タレントの闇営業問題に端を発した反社会的勢力との関わりと会社からの所属タレントに対する言論封殺。
共通しているのは、所属タレントよりも自社を守ることを優先させたことにより世論からのバッシングが大きくなっていることでしょうか。
これらの問題はまだ全容解明されていない中で、なぜこんなにも大きな話題になっているのでしょうか。
それらを考えた場合、マスコミからの注目が高いことの他に芸能界は一般企業と異なり組織の中におけるタレントの影響力が大きいことが一つの要因としてあげられそうです。
組織におけるタレントの特殊性
芸能界の組織における構成は、取締役を含む経営者、マネージャーなどの事務方、それから稼ぎ頭であるタレント。大きく分けて3つに大別できると思います。
通常の企業に置き換えれば、社長などの経営者、経理や総務などの間接部門、開発・製造などの直接労働者・営業などといったところでしょうか。
当然、全てなくてはならない機能ではありますが、芸能界においてはこのタレントが組織において特殊な役割である事がポイントとなります。
一般の企業であれば直接労働者は汎用性が求められ、各役割ごとにノウハウの共有も図られ担当替えもあります。
これは従業員の質を一定に保つことにより品質やサービスをコントロールし、何かあった場合に替えがきくようリスク管理をする事を目的としています。
そして、従業員が成果を残すと役職とそれに見合った給与を与え、新たな役割を持たせてさらなる成長と成果を期待します。
こうすることにより従業員のある程度の汎用性とモチベーションが保たれ、人材の流出を防ぎ組織を強化していくのです。
これに対しタレントには汎用性ではなく個性が求められ、役割ではなく名前で仕事をしています。
芸をする者としてそれを極めるという一本の道しか用意されておらず、売れずに構成作家に転身する方もいるようですが、ほとんどは売れなければお笑いを諦め、他業種へ転職せざるを得ないという潰しがきかない職業と言えます。
その代わり、売れればサラリーマンとは桁違いの収入が期待でき、文字通り会社の稼ぎ頭となります。
成果を目指すのではなく、名前が売れる事そのものが成果になるのです。
これにより会社は名前(個人)に依存してしまい、この個人は本業である芸の他に組織としてマネジメントや経営などのビジネススキルを学ぶ機会が与えられぬまま、役職や役割に関係なく個人の影響力が強くなっていきます。
こうなってしまうと、組織で問題が発生した場合、自分の思いが先行してただの烏合の衆となり収集がつかなくなってしまうのです。
現に所属タレントの個人的な意見が公共の電波で数多く流され、意見もバラバラな状況を見ると組織が機能しているとは言えない状況になっています。
タレントに言論を封殺することはあってなりませんし、問題提起をすること自体はとても重要なことですが、事が起きてからメディアで騒いでいるだけでは余計に事態を複雑化してしまい状況をすぐに好転させることは難しくなるでしょう。
本来、会社はこうあるべきであるという社訓やマネジメントによる育成の過程で会社の哲学と呼べる思想が自然と身につきます。
だからこそ会社の危機があった際には同じ志を持つ者として一枚岩となり会社の危機を乗り越える力が発揮されるのです。
奇しくもこの業界の組織がマネジメントとリスク管理が希薄であることを象徴する出来事になりました。
今の時代、黙っていても事態は沈静化できないし、とはいえ会社が中途半端な動きをとると対応が不十分で批判を浴びる。
結局、問題発覚後にやらなきゃいけないことはシンプルです。
「1.発生した問題の経緯説明と謝罪」
経営もしくは運営している組織のトップが即会見、その時に判明していないことも含めていかに正直に伝えることができるか。
本来は、経営のトップというよりは組織の上層部でなおかつ現場を理解している執行者(運営)のトップが立たれた方が話としてはわかりやすいはずです。
ただし、この手の会見は世論に対してのレスポンスなので、経営トップがいないと示しもつかないかもしれません。
会見の機会を分けるにしてもこの二者から早めの発信が必要でしょう。
ただし、注意しなければいけないのはトップは自分の意見が通らないことが嫌いで、叩かれることにも不慣れ、何事にも我慢ができない習性があるので現在わかっている範囲で自分の正当性を主張しようとしてしまうことです。
しかも大抵はネットでの批判やマスコミの報道を見て感情的になり、話がこじれた段階で登場し会社としてではなく自分の意見として当事者を批判して再炎上、という流れになりやすいので注意が必要です。
まずは、「現在わかっている事実」と誰が悪いかにかかわらず「世間を騒がせしてしまったということにお詫びをする」という事が初動として大切です。
この傾向は、以前記事にしたパワハラ問題で会長や理事長といわれる、組織の役割を理解しないまま構築されてしまった未熟な組織でより顕著に現れます。
「2.真相究明に必要な手段の説明」
調査の主体が誰で、いつまでに、どんな事をするのか。弁護士などの有識者に依頼するのか第三者委員会を発足するのかなど、方法をしっかり決めて伝える事が必要です。
大抵はこの方法を検討するのに時間がかかり、1.の対応を遅らせる事が多くあります。
本来、1.と2.は性質が異なるものなので1.をよりスピーディーに行い、2.の発表を別の日に設定し直すなど切り離して考える事が重要です。
「3.発生原因と事実の公表」
しっかり調査した上で、発生した理由や経緯などを明確に述べます。
特に個人が法的に裁かれていない場合、正当性を決定する要件は曖昧になるので、極力一方的な悪者扱いは控えるべきでしょう。できる限り起きた事を事務的に淡々と行った方が見ている人にとって客観的な情報となるので判断しやすくなるはずです。
「4.今後の再発防止対策)」
問題があった事なのであれば再発防止策を決定する必要があります。
大抵はコンプライアンスの問題なので、契約審査を厳しくするとか、教育をしっかりするであったり、従業員とのコミュニケーションをしっかりとるなどというようなありきたりの話になると思います。
実際は決まった事よりも、それを正しく運用できるかが重要です。
口当たりの良い返事だけして結果それが守られていないという事が今までの歴史では繰り返されてきています。
ただ単に偉い人が謝罪と説明をしたからといって本質的な解決に至ったとは言えません。いかに”対策の実行”と”実行に対するチェック”が継続的に行われているかどうかも成果の判断材料である事を忘れてはならないのです。
「5.責任の所在の明確化と処罰」
4.の再発防止策まで決まればあとは決着の仕方のみ。
個人的にはただ辞めればいいという問題では無いと思っていますが、現在の世論では大抵、”落とし前”や”示しがつかない”という感情論が先行してやや合理性に欠けるクローズの仕方が主流になっているように感じます。
元来、人は過ちを犯す生き物なので、人を変えても同じミスやそれ以上の問題を引き起こす組織もありますし、同じ人間が過ちから学ぶ事により再発を防ぐだけでなくさらに会社が良くなる事もあります。
つまり必要なのは”組織の明確な意思”であり、それを履行する人では無いという事になります。
この辺は考えが様々あるかと思いますので深く掘り下げることはしませんが、物事は表裏一体。見た目や肩書きだけで悪者と判断しても、実はビジネスマンとして高い能力があり、会社がやっていけていたのもその人のおかげ。なんて事が企業では多くあります。
万能な人なんていませんし、特に経営能力に関しては希少価値も高く、誰でも出来るものではありません。特にマスコミ偏向の業界ではその人の一面しか見えていないことも多いので本当に会社の事を思うのであれば物事を一つ一つ切り離して冷静な判断が必要だと思います。
ちなみに、この1.~5.は一つずつ順番に全てやるということがポイントで、今回1.~3.までを時間をかけずに一気にやってしまった場合、タレント側をいきなり断罪してクビを切ってしまい3.以降が適切になされない可能性がありました。
つまり、闇営業をしなければならなかった状況やあるいはそれを助長するような契約しかしてこなかった会社側に焦点があたることは無かったかもしれませんし、将来同じ事がまた起きてしまう可能性まであったということです。
事態を早急に収めたいところかと思いますが、事を急いでしまっては周りの納得も得られず結果的に再検証を余儀なくされることも覚悟しなければなりません。
いかにフェーズを一つずつ切り離して段階的に行う事が重要かお分りいただけたかと思います。
今回の問題を冷静に見ると
また、同時期に様々な事件や犯罪のニュースも多くありましたが、このものとは属性が全く異なるということは冷静に理解しておかなければいけません。
東京都には暴力団排除条例というものがありますが、これはあくまでも反社会的勢力と分かっていて営業した場合に科せられる罰則となるため、本人が知らなかったとなればこれは犯罪にはあたりませんし、当然罰則も無いわけですから前科などというものつきません。
一方で芸能人は公共の電波を通して発信することができて様々な人たちに影響を及ぼすことのできる社会的責任の大きい立場ですから、虚偽の報告をしてしまったことも含めて今回の批判はやむを得ないでしょう。
そしてその分、一般社会人よりも多いお金をもらい名声が得られるわけですから、いわゆるこの有名税というのは自由には責任が伴うということはしっかりと理解しておかないといけません。
ちなみに、烏合の衆ということであればその場における力が全てですから、会社全体ではなく目の前の利益を共有できる現場の者の中で”強力な力を持つ者”がリーダーとなれば一手に事態を収集する事ができる可能性はあると個人的には見ています。
”その者”が社長にでもなれば当事者全員が満足する結果になるかもしれませんね。
ただし、この革命に近い発想で組織をまとめあげた場合、その後の歴史がどうなってきたかは私の知るところではありませんが。
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